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長崎地方裁判所島原支部 昭和31年(ワ)47号 判決 1956年10月08日

原告

右代表者法務大臣

牧野良三

右指定代理人

今井文雄

吉武鷹敏

長崎県南高来郡西有家町丙百十八番地の一

被告

医療法人 親医会

同県同郡有家町戊五千四百四十三番地

右代表者理事

林田幸喜保

同県大村市乾鳥場郷七百八十二番地

右同

喜々津重胤

同県南高来郡西有家町丙千九百番地

右同

佐藤繁寿

右当事者間の昭和三十一年(ワ)第四七号詐害行為取消等請求事件について当裁判所は次の通り判決する。

主文

訴外渡辺昇が昭和二十九年十月二十七日別紙目録記載の物件につき被告との間になした譲渡契約はこれを取消す。

被告は原告に対し金三十八万円及びこれに対する昭和三十一年六月十一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人は主文と同趣旨の判決を求むる旨申立て、その請求原因として、訴外渡辺昇は昭和二十九年十月二十七日現在において昭和二十七年度分所得税一万七千九百八十円、同二十八年度分所得税三十七万八千九百三十五円、同無申告加算税二万六千六百円、同二十九年度分所得税十四万六千四百四十円及びこれに対する利子税六万七千三百十円、延滞加算税三万六千五百七十円以上合計六十七万三千八百三十五円を滞納しているのである。然るに右渡辺昇は昭和二十九年十月二十七日前記滞納処分による差押を免れるため故意にその唯一の財産である別紙目録記載の医療機械器具等一切を被告に譲渡した。

その後右渡辺昇は前記滞納税金について本税金十三万三千四百三十五円を納付したのみで残額五十一万三千八百円を納付しないので原告は国税徴収法第十五条にもとずいて右譲渡契約を取消し右譲渡物件は被告が自己の営業に使用したため滅失し或いは特定が困難であるから損害賠償として物件価格相当額である金三十八万円及びこれに対する本件訴状の被告に送達せられた日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いを求めると述べ、

証拠として甲第一号乃至同第五号証を提出し、証人北田顕一の尋問を求めた。

被告代表者は請求棄却の判決を求め答弁として訴外渡辺昇が原告主張通りの税金等の滞納の事実あることは争はないが訴外渡辺昇は国税滞納処分による差押を免れるため原告主張の様な物件を被告に譲渡したのではない、右譲渡は同訴外人が被告の病院に勤務するに至つた為であると述べ

甲第一号乃至第三号証の成立を認め同第四第五号証は不知と答えた。

理由

訴外渡辺昇が原告主張の様な国税等の滞納をしている事実については当事者間に争がない、成立について争のない甲第一乃至第三号証の記載と証人北田顕一の証言並びに同証人の証言によつて真正に成立したものと認め得る甲第四同第五号証の記載を綜合すると、訴外渡辺昇は原告主張の頃その主張の物件を被告に対し喜々津重胤と言う他人名義を以て現物出資として譲渡していること、同譲渡は前記国税等の滞納処分による差押を免れるために為されたもので且つ同訴外人は同物件以外に財産を所有していないことを認むることが出来る。然るに訴外渡辺昇はその後前記の滞納税金中本税金について金十三万三千四百三十五円の納入をなしたとしてその残額金五十一万三千八百円の未納分について国税徴収法第十五条に基いて右譲渡契約の取消をしているのであるからこれを原因とする右契約の取消は正当である、よつて被告は同物件の返還をなすべきであるが前掲の証拠によれば又右物件中薬品類は一部は既に使用消費せられ、機械器具類も一部破損しているものがあるばかりでなく他の同種品との区別も困難である事情等認められるのでその現物の回復は著しく困難と認められるのでこれが損害賠償として物件価格相当額を支払うべきである。そこで同物件の価格の点について按ずるに前掲の真正に成立したものと認める甲第三号証の記載に徴すると金三十八万円を以て相当価格と認められるので被告は同金員及これに対する訴状送達の翌日が記録上明白な昭和三十一年六月十一日より年五分の割合による金員の支払を為すべき義務がある。

よつて原告の請求は全部正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担の点について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 田中英寛)

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